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日々小実験

『パルプ』だよ人生は

『パルプ』チャールズ・ブコウスキー 柴田元幸訳(新潮文庫)  以前読んで、今回再読。  たぶん、初めて読んだときは相当読み飛ばしたのだろうな、と思う。だってこの小説、かなり変なんだ。  探偵が依頼を受けて解決しようとする、というのが大きな話なのだが、この探偵、「ニック・ビレーンは史上最低の私立探偵である」(訳者あとがき)。  とりあえずと言って、酒を飲みにいっては酒場でトラブルになり、競馬場に行ってはトラブルになり、仕事をきちんとやっているように思えない。だが、なんだかわけが分からないままいくつかの事件は解決してしまっている。宇宙人の地球侵略も阻止したりしているし。  しかし、今回じっくり読んでみると、なんだか悲しい小説だった。文章も非情だし、登場人物に対する視線も非情だ。探偵の回りに出てくる人たちはただ通り過ぎるように現れ、去っていく。がらんとした、荒涼とした風景。その中でもがいているだけの「俺」。だけど、生きていくってことはたぶんそんなつまらないことなんじゃないか?と思えてくる。  文章も、最初はすかすかの、素人みたいな文章だと思ったのだと思うが、読み直したらこれってほとんど詩に近いんじゃないかな、と思うくらいくらくらするかっこよさだった。
 翌日またオフィスに戻った。なんだか物足りない気分だ。正直言って、何もかも嫌気がさしてきた。俺はどこへも進んじゃいないし、世界全部がそうだ。俺たちみんな、ぶらぶらしながら死ぬのを待ってるだけだ。それまでのすきまを埋めようと、あれこれしょうもないことをやっている。しょうもないことさえやってない奴もいる。人間なんて野菜だ。俺だってそうだ。自分がどんな野菜かはわからんが、気分としてはカブだ。俺は葉巻に火をつけて、ふかして、さもわけがわかってるみたいな顔をしてみた。(p237)
 ここは比較的まともなことを言っている。まともなことも言うのだが、あまりまともとも思えないことも言う。じっさい、それも人間であるに違いない。
 表題の『パルプ』とは、かつてアメリカで大量に出版され大量に消費された三文雑誌のことをさす。製紙原料に安価な木材パルプをもっぱら使用したことからこの名がある。(訳者あとがきより)
 人生なんて「パルプ」なのさ。そこからじゃないと何も始まらない。とにかくかっこいい小説だった。
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