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日々小実験

『ティファニーで朝食を』を読む

ティファニーで朝食をトルーマン・カポーティ 村上春樹訳(新潮社)  『ティファニーで朝食を』の映画はたぶん見ているのだろうが、例によってあまりはっきりおぼえていない。 「ムーンリバー」だけ別の機会に聴いているだけなのかもしれないが。  ホリー・ゴライトリーという女性のキャラクターを作り上げただけですばらしい。  いろんな男の間を飛び回るが、むしろそれゆえにイノセンスが保持され続けている、という逆説的な女性。  しかしそのイノセンスも周囲や戦争といったものに窮地に追い込まれていく。  主人公の「僕」と同様に、私ははらはらして彼女を見守らなくてはいけない。  ずうっと心配しながら読んでしまった。  私はやっぱり「僕」に共感してしまう。  もっと積極的にホリーに関与していって、救ってあげられればいいのだが、ホリーの輝きの方がずっと強く、いわば「格」が違うので語り手の立場でしかいられない。  それではさびしいのだろうけれど。    その他に。  ・猫の使い方があまりにすばらしく、ずるいと思った。  ・登場人物たちがホリー以外にもきちんと描かれていて、むだがない。   ・村上春樹自身の小説を読んでいるみたい。たとえばこんなところ。
「ねえ」と彼女は僕の顎の下に手をあてて言った。「あなたの小説が採用されて、とても嬉しいわ。嘘いつわりなく」(p69)
 村上春樹があとがきでこう書いている。そのとおりだと思います。
 主人公の「僕」がホリー・ゴライトリーのイノセンスの翼を信じ続けるように、信じ続けようと心に決めたように、僕らもまたこの『ティファニーで朝食を』に描かれた美しくはかない世界を信じ続けることになる。寓話と言ってしまえばそれまでだ。しかし真に優れた寓話は、それにしかできないやり方で、我々が生きていくために必要とする力と温かみと希望を与えてくれる。  そして小説家トルーマン・カポーティは、僕らに優れた寓話とはどのようなものであるかという実例を、鮮やかに示してくれたのである。
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